薬価制度について(その3)

1.新規後発品の薬価算定

まず、新規後発品の薬価算定についてみていきます。新医薬品と同一成分で初めて薬価収載が認められた後発医薬品(以下、「後発品」)の薬価は、その新医薬品(以下、「先発医薬品」)の薬価に原則として0.5を乗じた額となります(下図参照)。

このように先発医薬品に対して後発品が低く抑えられているのは、医療費削減のために薬剤費の全体を低くすることと、そのために後発品を使用促進させることにあります。この制度は1996年から始められ、1996年に先発医薬品の0.9倍から0.8倍へ、2004年に0.7倍に、2014年に0.6倍にと順次下げられて、2016年から現行の0.5倍となっています。

また、例外的に内服薬について銘柄数が10を超える場合には、先発医薬品の薬価に0.4を乗じた額となります。

このように10銘柄を超えた場合にさらに薬価を低くするルールが設けられているのは、売り上げの大きな先発医薬品は新規後発品が増える傾向にあり、それらを先発医薬品の0.4倍とすることで薬剤費全体を低くすることにあります。

加えて、1つの先発医薬品に対して多くの後発医薬品が販売されることで、医師・薬剤師の手間が増えてしまい医療現場の混乱による後発品の普及をかえって妨げてしまうという問題があります。例えば、先発医薬品の認知症治療薬「アリセプト」(一般名・ドネペジル)はピーク時はグローバルで3000億円以上の売上高のあった医薬品ですが、その新規後発品が2011年11月に薬価収載された際には30銘柄101品目という異常に多数の後発品が発売され医療現場の混乱が生じました。そのため、新たに市場化する新規後発品の数を減らすことにより、そのようなことが起きないないようにすることにもその目的があります。

一方、バイオ後続品(バイオシミラー)については、低分子化合物の後発品と異なり、分子量が大きく構造が複雑なため、先行するバイオ医薬品と同一性を示すことが困難であるため、品質、安全性、有効性の観点から臨床試験が求められています。このような、バイオ後続品については、基本として先発医薬品の薬価に0.7を乗じた額となりますが、臨床試験の充実度に応じて10%を上限として加算がされます。

現行の薬価基準制度(概要)(中央社会保険医療協議会資料より)

2.薬価改定について

薬価改定とは、公定価格である薬価を現状に応じて見直すことです。従来、2年おきの診療報酬改定に合わせて行われていましたが、2021年から毎年実施されることとなりました。これは、医療費の増加を抑えるために、薬価により実勢価格を早く反映させることを目的としています。

このような薬価に実勢価格を反映させると、大半の医薬品が改定以前に比べて薬価が下がります。これは、医療用医薬品の市場は、形式的には公定価格としながら、実際には一般の消費財と同じように自由な価格競争が行われているのが実情だからです。医療機関や薬局は公定価格である薬価に基づいて医薬品の費用を請求する一方、製薬企業から卸、卸から医療機関・薬局に販売される価格は、当事者間で自由に設定されています。そのため、医療機関や薬局にとっては、卸からの仕入れ値と公定価格である薬価の差額である薬価差益という利益が生じます。

そこで、このような薬価差益を減らすことを目的として、医薬品が薬価よりも低い価格で売買されている実態に薬価を合わせていくために薬価を引き下げるのが、薬価改定の基本となります。

具体的には、医薬品の販売価格の調査を行い、薬価改定の際、各品目の市場実勢価格の加重平均値に調整幅を加えた額を新たな薬価とします。これは市場実勢価格加重平均値調整幅方式と呼ばれ、改定後薬価=(医療機関・薬局への販売価格の加重平均) × (1+消費税)+調整幅(2%)として算定されます。(下図参照)

令和6年度薬価改定について(第202回薬価専門部会資料より)

3.新薬創出加算・適用外薬解消等促進加算制度 

一方、薬価改定により基本的に薬価が下がることで、医薬品の開発意欲の低下、コストに見合わない医薬品は開発しなくなるなど、ドラッグ・ラグや新薬開発の停滞がおこるおそれがあります。

そのため、ドラッグ・ラグの解消や革新的新薬の開発促進を目的に、一定条件下において、特許期間中の新薬の薬価が下がらないようにする制度として、新薬創出・適用外薬解消等促進加算制度(以下、「新薬創出等加算制度」)が設けられています。

新薬創出等加算制度の対象になった医薬品は、薬価改定時に本規定の適用前の価格に加算後の価格が改定前薬価となる額が加算されます。これは、後発医薬品が上市される前(特許が切れる前)又は薬価収載から15年まで適用され、実質的に薬価が維持されることになります。

この反作用として、後発医薬品が上市された後、又は、薬価基準収載後15年を経過するとそれまでの加算分を含めて薬価が引き下げられます。(下図参照)

対象となる医薬品は、11種類に分類されていますが主なものとして、希少疾病用医薬品、厚生労働省が開発を公募した医薬品、薬価算定時に画期性加算や有用性加算がついた医薬品、革新性や有用性がある新規作用機序の医薬品、小児加算要件を満たした医薬品、薬剤耐性菌の治療に用いる医薬品などです。

対象となる企業は、厚生労働省から開発を要請された品目について、適切な対応を行った企業や過去5年間の医療の質に貢献する医薬品(国内治験、革新性のある新薬、開発公募品等により評価)を開発した企業となります。

新薬創出・適応外薬解消等促進加算について(中央社会保険医療協議会資料より)

4.長期収載品の薬価改定

特許の切れた先発医薬品は後発品が上市されていくこととなりますが、このような先発医薬品は長期収載品と呼ばれます。長期収載品の薬価改定は、市場実勢価格に基づく改定が原則となります。しかし、後発品への置換えが進まない長期収載品については、薬価の更なる適正化を図る観点から、薬価を特に引き下げるルールとして、特例引下げ(Z2)という後発品への置換え率別の引下げ率の制度があります。

Z2は、後発品の薬価収載から5年たった長期収載品に適用されます。後発品への置き換え率に応じて、以下の特例引下げ率が適用されます。

*置き換え率60%未満の場合は2%

*置き換え率60%以上80%未満の場合は1.75%

そして、Z2の適用から5年が経過して後発品の発売から10年がたった時点(以下「10年経過後」)で、長期収載品はG1、G2という分類分けて長期的に後発品と同じか近い水準まで薬価を引き下げられます。さらに、G1、G2による引下げを受けない品目はCと分類されて補完的な引下げがなされます。

具体的には、10年経過後で後発品への置き換え率が80%以上の長期収載品はG1に分類されて、10年経過後の最初の薬価改定で後発品の2.5倍まで薬価を引き下げ、その後6年かけて後発品と同じ薬価になるように更に引下げられます。

10年経過後置き換え率が80%未満といった後発品への置換えが困難な長期収載品はG2に分類されて、G1同様、10年経過後の最初の薬価改定で後発品の2.5倍まで薬価を引き下げ、その後は10年かけて後発品の1.5倍まで薬価を引き下げられます。

さらに、後発品発売後10年たった薬価が既に後発品の2.5倍以下になっている場合には、G1、G2ではなく補完的な引下げのCが適用されます。Cとは、Z2の基準を10年経過後の薬価に準用する分類で、Z2と同様に後発品への置き換え率に応じて、長期収載品は1.5%~2%引き下げられます。

長期収載品の薬価改定の流れ(中央社会保険医療協議会資料を基に作成)

以上、今回は、新規後発品の薬価算定、薬価改定、新薬創出加算等制度、長期収載品の薬価改定といった新医薬品が薬価収載された後の具体的なルールについてみてきました。

薬価制度については、聞きなれない用語が多く制度も複雑なのですが、解説いたしました主なルールを軸に大きな流れをつかんでいただければと思います。

現在、薬価制度は毎年の薬価改定や保険収載後の費用対効果評価が始まるなど、新たな課題への対応や問題も生じてきています。関心が高まってきているこのようなテーマについても、皆様の薬価制度のご理解を深めるため、今後、このコラムでは展開してまいります。

文責:岡野内 徳弥

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岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル ManagingConsultant

静岡県立大学大学院薬学研究科修了、マサチューセッツ大学ビジネススクール修了。

博士(薬学)、経営学修士。

厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。