薬価制度について(その1)

1.はじめに

 「薬価」という言葉やその存在は広く知られていますが、実際に薬価がどのような制度となっているかは、かなり難解なものです。このコラムでは、医薬品を研究開発、販売される皆様に、保険医療において用いられる医薬品が薬価として、どのような手続きの下でどのように評価されて定められるかという制度について、基本的な知識や考え方を持っていただくというものです。

第1回においては、薬価の具体的なルールの前提として、薬価の保険医療における位置づけや決定機関などについて解説します。基本的なお話から始めますがどうぞお付き合いください。

2.保険医療制度における薬価

保険医療制度については、ご存じのとおり、被保険者(患者)が医療保険者(健康保険組合、国民健康保険(都道府県、市町村)等)に保険料の支払いの上で、患者が医療機関において医療サービスを受けると(その際に患者の一部負担金あり)、当該医療機関はその診療報酬を審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金等)を通じて医療保険者から受け取るというものです。

ここにおいて、診療報酬には実際になされる医療の技術・サービスとして評価(医科、歯科、調剤)と物の価格として評価があります。薬価とは、物の価格として医療用医薬品の公定価格となるものです(下図参照)。

3.薬価がどのように定められるのか

では、このような薬価がどのように定められるのかについてみていきます。先に述べたように薬価は診療報酬の一部となるものですから、診療報酬として定められます。そして、この診療報酬を定める機関が、「中央社会保険医療協議会」となります。

中央社会保険医療協議会(以下、「中医協」)は、健康保険制度や診療報酬などについて審議する厚生労働相の諮問機関です。その組織は、総会を頂点として、その下部組織である専門部会、小委員会、専門組織から構成されています。47兆3000億円(2023年)という莫大な規模の日本の医療費について、その根幹の健康保険制度を実質的に決定する機関ですので、その重要性、権力の大きさは言わずもがなですが、意思決定機関である総会における委員は、医療費の支払いを受ける診療側を代表する医師・歯科医師・薬剤師と支払いする保険者の代表者が7名ずつの同数、公益の代表者(学識経験者等)が6名というバランスをとって構成されています(下図参照)。

そして、薬価の詳細なルールや具体的な評価については、専門の知識を有する者による審議や詳細な算定等が必要であるため、専門部会として「薬価専門部会」と専門組織として「薬価算定組織」が設置されています。薬価専門部会においては、主に薬価の価格算定のルールが審議がされ、薬価算定組織では、新薬の具体的な薬価算定についての調査審議がなされている(下図参照、太枠囲いが該当組織)。

中央社会保険医療協議会総会資料(平成30年5月23日開催)より

4.新医薬品の薬価基準収載の手続き

ここで、医薬品が承認されると、どのような手続きで薬価収載されるかについてみておきます。

まず、新医薬品の薬価基準収載の希望者は、医薬品の承認が審議される薬事審議会医薬品第1部会又は医薬品第2部会の終了後、1週間を経過した日までに必要書類を厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課(以下、「産業課」)に提出することとされています。ここで重要なことは、診療報酬を所管している保険局医療課(中医協の事務局)ではなく、医薬品産業を所管している部局が窓口となっていることです。

産業課において薬価収載希望者(医薬品製造販売業者)にヒアリングが行われ、保険適用が可能であるかなどが検討されますが、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会といった関係学術団体の意見聴取などもされます。ここで保険適用が可能であると決まると、この段階で診療報酬を所管している保険局医療課へと進みます。医療課で算定原案が策定されて、中医協の「薬価算定組織」において、算定原案について審議されます。ここでは当該製造販売業者が申請者として意見を述べることができます(決定には加われません)。薬価算定組織の委員の多数意見を踏まえて算定案が決定されると、算定結果が当該医薬品製造販売業者に通知されます。

そして、当該医薬品製造販売業者に不服がなければ、中医協の総会に算定案が報告されて了承されれば薬価収載となります。一方、不服があると不服意見提出が認められており、「薬価算定組織」にて再度の審議がなされ同様の手続きで医薬品製造販売業者に通知されます。

ここまでの手続きの期間は原則60日以内、遅くとも90日以内になされるというルールがあります。

5.薬価の意味

先ほど、薬価は医療用医薬品の公定価格であると述べましたが、公定価格という意味は、保険医療機関及び保険薬局が薬剤の支給に要する単位当たりの平均的な費用額として銘柄ごとに定められていることです。そのために、以下の「品目表」と「価格表」の役割があります。

  • 「品目表」として、保険医療において薬価基準収載医薬品以外の医薬品の処方、調剤を認めてい ないこと(健康保険法、療担・薬担規則)。
  • 「価格表」として、保険医療において使用された医薬品について医療保険から保険医療機関及び保険薬局に支払われる価格として、厚生労働大臣が告示すること。

薬価収載されている医薬品の数と種類については以下のとおりです。

以上、今回は薬価制度の紹介にあたり、薬価の保険診療における位置づけ、薬価を決定する機関、医薬品の承認から薬価収載までの手続きなどについてみてきました。ここまでは導入ということになりますが、次回から、具体的な薬価のルールについて解説していきます。

文責:岡野内 徳弥

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岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル ManagingConsultant

静岡県立大学大学院薬学研究科修了、マサチューセッツ大学ビジネススクール修了。

博士(薬学)、経営学修士。

厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。