【CDIメディカルEye 】 ネット・サービス@医療業界

ネット・サービス@医療業界

今年はオンライン診療が注目されました。オンライン診療は、外来、入院、在宅医療に続く第4の新しい医療といわれています。普段の生活ではインターネットはすでに、なくてはならないものとなっています。例えば、スマホがない生活はもう考えられないのではないでしょうか。

今回は、インターネット・サービス(以下、ネット・サービスと略します)の本質を踏まえると、日本の医療業界ではどのようなサービスが展開されうるのか?それを担えるプレーヤーはどのような人なのかを考えてみます。結論から申し上げると、医療業界のみならず異業種にも、大規模法人のみならず中堅・中小法人にも、オンラインだけでなくオフラインにも、あらゆる方々にご尽力いただける分野と考えております。

目次

1、 医療業界でのネット・サービスをとらえる枠組み

2、 個人を集めるPortal(B to C)の世界

3、 事業者を集めるEnabler(B to B)の世界

4、 PortalとEnablerをつなぐ世界

5、 これからの世界

1、医療業界でのネット・サービスをとらえる枠組み

二つの軸で、医療業界でのネット・サービスをとらえてみます。

尾原和啓氏はその著書「ネットビジネス進化論」の中で、ネットビジネスの本質を「小分けにしたものを遠くとつなげる」と表現しています。そして、個人を集めるPortal(B to C)と事業者を集めるEnabler(B to B)とがあり、その二つをつなげるプレーヤーが存在するとしています。例えば、楽天はインターネット通販で個人を集め、宿泊事業者等を集めた「旅の窓口」を日立造船から買収し、つなげて楽天トラベルの基礎をつくりました。こうした動きを縦軸に取ります。

また、一度大病を患うと、病気にならないようにどうするか、病気になったら誰に診てもらうか、退院後はどうやって復帰してていくかと、病気を一連の流れで考えるようになります。つまり、病気の進行段階は、病院に行く前の予防(健康)の段階と、病院での診断・治療の段階と、病院を出た後の予後(養老)の段階と3つあります。これを横軸に取ります。

2、個人を集めるPortal(B to C)の世界

この世界の雄は保険者です。特に日本は国民皆保険ですので、全国民が集められています。医療保険でしたら、大企業の健保組合、中小企業の協会けんぽ、その他国保などがあります。予後(養老)の世界では、介護保険が自治体によって運営されています。

今はまだ、個人とスマホでつながっているわけではありませんが、明るい兆しが見えてきました。21年3月から病院や薬局は、マイナンバーカードのICチップか健康保険証の記号番号を使って、患者さんの保険資格をオンラインで確認できることになります。さらに、詳細は省きますが、マイナポータルを使えば、自分の医療データを、自分で把握できて、自分の意思によって、オンラインで利用できるようになります。例えば、マイナポータルから、自分の障害者手帳情報を取得して、ミライロ社が提供しているアプリに反映させることがすでにできるようになっています。これから色々な利用方法が考えだされていくでしょう。データヘルスの世界ではエポックメーキングな出来事です。

また他にもいくつものプレーヤーが現れてきました。例えば、オンライン健康相談は今回の感染対策でも活用されました。電話で相談するだけではなく、チャットで気軽に質問したり、ビデオ通話で顔を見ながら相談したりできます。

加えて、ドラッグストアなどの健康アプリも普及してきました。特に歩数計は意識せずポイントがたまるのでよく使われています。例えば、花粉症の人いますか?とアプリで質問すれば、何万人もの人を一瞬にして集められるようになりました。

それ以外にもウェアラブル・デバイスが以前から販売されています。グローバルでの話になりますが、Fitbitは800万人以上の心拍変動データから年齢、性別、身体活動量などによって自律神経活動にどのように影響するかをLancet Digital Health誌に20年12月に発表しています。

3、事業者を集めるEnabler(B to B)の世界

この世界の雄は、エムスリーです。医療情報を医師に提供するなどして、日本だけでも約27万人とほとんどの医師を会員にしています。時価総額は今年6兆円を超えました。

予防の世界では、福利厚生サービスのベネフィット・ワンをあげてもよいでしょう。保養所やスポーツクラブなどあらゆる事業者を束ねています。手軽な価格で使えるので、利用された方もいるのではないでしょうか。時価総額は5000億円ほどになりました。

医療人材紹介のエス・エム・エスは時価総額が3000億円ほどです。介護事業者向けの経営支援ソフトも展開して予後(養老)分野でも活動しています。

そして、オンライン診療は今年拡大し15%ほどの病院・診療所に導入されまた。

4、PortalとEnablerをつなぐ世界

さて、LINEヘルスケアがオンライン診療を開始します。8000万人以上の人が利用するLINEと27万人の医師を束ねるエムスリーが資本を出し合った会社です。個人を束ねたLINEと事業者たる医師を束ねたエムスリーが手を組んでPortalとEnablerをつないだプラットフォーム(以下、PFを略します)事例です。業界に大きなインパクトを及ぼす可能性があります。

これまでへき地であるために、あるいは部屋から出られないために医療にアクセスできなかった患者さんが、日進月歩の医療を受けられる選択肢を一つ手にしました。

そして、このつながりはどの患者さんがどのお医者さんに診てもらったのか、その時の診療内容はどのようなものであったのかがPF上で捕捉することができます。そうなると、その患者さんの健康状態にあった生命保険をつくりだすことができます。また、どのくらいの患者さんが集まるお医者さんかもわかるので、その信用にあった融資をすることもできます。

このつながりでは、ID・決済・生体の3点情報が得られることになりますので、それをもとに、様々なモノ・サービスが開発され提供されていくでしょう。

5、これからの世界

3点指摘したいと思います。

①異業種からの参入もありえます。

LINEが参入したように、個人を束ねるPortalは、必ずしも医療専業である必要はありません。また、事業者を束ねるEnablerも医療専業である必要はありません。なぜなら、このPF上では、予防(健康)~診断・治療~予後(養老)にかかわる広範な商品(モノ・サービス)が展開されるからです。日常の中の一部として医療が位置付けられます。

②中堅・中小法人の参入もありえます。

一度大きなPFが出来上がっても、その上にサブPFが展開されるでしょう。例えば、糖尿病、認知症、皮膚疾患、眼疾患ごとにサブPFができて、そのサブPFごとに患者、医師、病院、メーカー(開発や販売)などが関与していくでしょう。楽天やAMAZON上でも商品カテゴリーなどで細かく分類されています。サブPFをどう設定するかのアイデアが続く限り、サービス開発は続きます。

③オフライン・プレーヤーの参入もありえます。

医療は直接の診断・治療が大前提です。患者さんはオンライン診療を利用しても、いざというときに誰が私を直接診てくれるのか?と考えます。現実的に考えて、家の近くの病院・医師とのつながりが大切ですから、家の近くの病院・医師とオンラインとオフラインの両方の関係を基本にするでしょう。そして、それを補完するように、時々遠方の専門病院・医師とオンライン関係を持つことになると思います。普段、直接診療をされている病院やお医者さんにとっても、オンラインは身近なものになっていくでしょう。

文責:安島 孝知

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安島 孝知(CDIグループオーナー会 メンバー)

一橋大学社会学部卒。

ベイン・アンド・カンパニーコンサルタント、株式会社コーポレイトディレクション取締役パートナー、株式会社CDIメディカル代表取締役、メドピア株式会社取締役を経て、現任。

35年以上にわたるコンサルティング活動を通じて、メディカル業界を中心に、銀行、証券、生損保、電力、通信、教育、流通等幅広い経験を持つ。特にメディカル分野では、医療機関、大学病院、介護保険施設、医薬品・医療機器メーカー、バイオベンチャー、CRO、SMO、健康保険組合などへのコンサルティング活動をベースに、多面的な視点に基づくメディカル業界への提言を行っている。