薬価制度について(その2)

1.新医薬品の薬価算定方式の全体像

薬価算定は大きく分けて、新医薬品の薬価算定、新規後発品の薬価算定、及び薬価改定の3つから成ります。始めに新医薬品の薬価算定方式からみていきます。新医薬品(新薬)とは、再審査を受けなければならない新規収載品と定義されます。

下図に新医薬品の薬価算定方式の全体像を示しました。これを参照しながら説明いたします。まず、新医薬品は「類似薬あり」か「類似薬なし」かで分類されます。ここにおいて、類似薬とは、医薬品の効能・効果、薬理作用、組成・化学構造式、投与形態・剤型・用法からみて類似していると判断される薬価収載されている既存薬です。

「類似薬あり」の分類は、更に「新規性に乏しい」か否かで2つに分類されます。「新規性に乏しい」とは、補正加算の対象外であること及び類似した薬理作用にある成分が3つ以上あることから判断されます。

以上のように、新医薬品は類似薬の有無と類似薬がある場合の新規性に乏しいか否かの3つに分類されます。そして、その分類に応じてそれぞれ算定方式が適用されます。

「類似薬なし」の分類は、類似薬がなければ比較対象がありませんので、「原価計算方式」が適用されます。

「類似薬あり」の分類は、比較する既存の類似薬がありますので、類似薬効と比較する方式となりますが、「新規性に乏しい」か否かで「類似薬効比較方式(Ⅰ)」と「類似薬効比較方式(Ⅱ)」がそれぞれ適用されます。

これら3つの算定方式と算定された額が調整される外国平均価格調整の制度について、以下、具体的にみていきます。

2.類似薬効比較方式(Ⅰ)

類似薬効比較方式(Ⅰ)が適用される新医薬品は、類似薬があっても相応に新規性があると認められる医薬品が該当します。そこで、まずはベースとなる類似薬と薬価を同一になるように算定します。医薬品は用法・用量や剤型の違いなどから、単純に比較できませんので、「1日薬価」とう概念を用います。「1日薬価」とは承認された用法・用量に従い、通常最大用量を投与した場合の1日当たりの平均的費用のことです。そして、「類似薬」を薬価の比較対象にして、「1日薬価」が同一になるように薬価算定(「1日薬価合わせ」と呼ばれる。)をします。

例を用いて説明しますと、以下のようになります

例: 類似薬 1日3錠 1錠=50円 新薬 1日2錠 1錠=a円 

  →1日薬価合わせ 50円×3錠=a円×2錠 a=75円 新薬は1錠当たり75円となる。

このように、ベースとなる類似薬と同一の薬価が算定され、新規性が相応に認められることから、補正加算がなされます。補正加算とは下図に示したように、当該医薬品の特徴、性質、用いられ方などが、定められた補正加算の種類の要件を満たす場合には、補正加算率に応じて加算がなされるものです。

補正加算は分類すると、新規の作用機序、高い有用性・安全性、治療方法の改善という医薬品として高い有用性が期待される加算の種類と、対象者が特殊や希少であるため開発にインセンティブを働かせる必要のある市場性の加算の種類がある。複数の補正加算に該当する場合には、それぞれの加算の割合の和を算定に用います。

なお、著明な有効性が見込まれる医薬品を優生的に審査する先駆け審査指定制度といった承認段階に導入された制度に対応した補正加算の種類あります。(下図参照)

3.類似薬効比較方式(Ⅱ)

類似薬効比較方式(Ⅱ)が適用される新医薬品は、類似薬があり新規性に乏しい新薬です。補正加算対象外で3つ以上の薬理作用類似薬があることから、加算が付かない「四番手」以降の医薬品が該当します。

新規性に乏しいことから、既存の薬価収載された類似薬のうち低い価格として算定され、原則、①過去10年間に収載された類似薬の1日薬価の平均価格と②過去6年間に収載された類似薬の最も安い1日薬価のうち低い額として算定されます。

ただし、①及び②が、③「類似薬効比較方式(Ⅰ)による算定額(最類似薬の1日薬価)」を超える場合には、④過去15年間に収載された類似薬の1日薬価の平均価格と⑤過去10年間に収載された類似薬の最も安い1日薬価を算出して、③~⑤の最も低い額とします(下図参照)。

4.原価算定方式

原価算定方式が適用される新医薬品は、類似薬のない新薬が該当します。原価算定方式とは、製造原価(原材料費、労務費、製造経費)、販売管理費(研究開発費、一般管理費、販売費)及び流通経費を積み上げ、そこに製薬企業の利益を乗せた額を薬価とする方法です。

ただし、薬価収載申請者の原価計算では自己に都合よくお手盛りにするおそれがあるため、その計算の基礎となる労務費単価、一般管理販売比率、営業利益率、流通経費率には、医薬品製造業に関する直近の統計データを用いることでその防止を図っています。

既存治療に比べて高い有用性等が客観的に示されている場合などには、類似薬効比較方式(I)と同じように、原価算定薬価に補正加算を加えられます。ただし、製品総原価のうち、薬価算定組織での開示が可能な部分の割合(開示度)に応じて、加算率に差が設定されます(下図参照)。

5.外国平均価格調整

外国平均価格調整とは、同じ医薬品なのに日本で算定する薬価が欧米主要国と比較して突出して高かったり、低かったりして大きな差が生じないように適正な範囲に定めようとするルールです。

原価計算方式又は薬理作用類似薬のない品目における類似薬効比較方式において、外国価格との乖離が大きい場合(外国平均価格の1.25倍以上又は0.75倍以下)に、価格の調整が行われます。

ここにおける外国とは、米国、英国、ドイツ、フランスを意味します。また、外国価格が2か国以上あり、最高価格が最低価格の2.5倍超の場合は、最高価格を除いた外国価格の平均額となります。外国価格が3か国以上あり、最高価格がそれ以外の価格の平均額の2倍超の場合は、最高価格をそれ以外の価格の平均額の2倍とみなします。(下図参照)

以上、今回は薬価制度の具体的なルールとして、新医薬品の薬価算定の方法と外国平均価格調整についてみてきました。次回は、新規後発品の薬価算定と薬価改定について解説する予定です。

文責:岡野内 徳弥

本コラムの無断転載を禁止いたします。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: 200408_岡野内徳弥-200x300.jpg

岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル ManagingConsultant

静岡県立大学大学院薬学研究科修了、マサチューセッツ大学ビジネススクール修了。

博士(薬学)、経営学修士。

厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。