CDIメディカル サポーターシリーズ 第五回野地翔さん「福祉事業の世界に飛び込んで」

野地さん1

~まず、はじめに~

今回は、LITALICO(りたりこ)という会社で福祉事業にたずさわっている野地翔さんをゲストにお招きしました。野地さんは、LITALICOがまだ80人規模の時に学卒で参加されました。5年たった今では1000人を超える急成長会社です。CDIメディカルは、野地さんを応援したいと思っています。皆様にも是非、知っていただきたい若者です。サポーターシリーズの番外編としてお楽しみください。

【野地翔さん 略歴】

1987年 生まれ

2010年 東京大学経済学部卒

2010年 株式会社LITALICO入社

2010年 新規事業開発担当

2011年 現Leaf事業部/担当:1店舗目の開設、マーケティング

2014年 経営企画部/担当:事業戦略立案や中期経営計画立案等

構成

(1)~10年で社員1000人に急成長した福祉事業~
(2)~新卒で80人のベンチャー企業に入ったわけ~
(3)~福祉事業で学んでいること~


野地さん2

~10年で社員1000人に急成長した福祉事業~

野地:安島さん、このコーナーのゲストは皆さん年配の方ばかりですが、私のような若者でよいのですか?

安島:いやいや、今日はありがとうございます。野地さんとは、就職活動をしている時に知り合いましたが、社会人になって5年たち、突然、連絡をしてきてくれて嬉しく思いました。

野地:学生の頃にお世話になりましたから、ご報告もかねてと思いました。

安島:さっそく、話を聞かせてほしいのですが、入った時は80人くらいのベンチャーだった会社が、5年たった今は1000人を超えているそうですね。それも、福祉事業でそれだけ成長していると聞いて、正直、驚きました。どのような仕事をしているか聞かせてください。

野地:はい。私のいる会社は、LITALICO(りたりこ)という会社です。「世界を変え、社員を幸せに」という理念と、「障害のない社会をつくる」というビジョンを大切にしています。

安島:「障害のない社会をつくる」というのは理想ですが、現実的でしょうか。

野地:はい、一見そういう気がします。けれども、たとえば、近視の方は結構多いと思います。メガネがない時代でしたら障害です。日常生活にも苦労されたと思います。しかし、メガネが日常的に使えると、近視は障害ではなくなります。そういうことを広げていきたいという考え方です。

安島:なるほど、確かにそうですね。考えたこともありませんでした。

野地:我々の一番大きな事業は、障害を持つ方の就労支援です。WINGLEと称しています。たとえば、精神障害を持つ方に働くためのトレーニングをサポートしたり、就職先を探したり、就職後のフォローをしたりします。年間850人以上の方が仕事に就かれています。

安島:就職口を探すのは、大変ではないですか?

野地:簡単ではありません。しかし、各地域で探していると、地場の方がやっている企業などで見つけることができます。地域社会を良くしたいという思いを感じます。

安島:その他にはどのような事業をされていますか?

野地:二番目に大きな事業は、障害を持つお子さんの学習支援です。Leafと称しています。たとえば、発達障害のお子さんのソーシャルスキルや基礎学習などを学んでいただいています。

安島:親御さんも心配でしょうね。

野地:はい、発達障害の疑いがあるといわれても、具体的にどこで何をしたらよいかわからず、充分な体制が整っているとは言えません。
また、Leafに通っているお子さんはユニークな才能を持っていることがあり、学校の遅れを取り戻すだけではなく、そのユニークな才能を伸ばしていくことも考えています。たとえば、プログラミングやロボット、3Dプリンターを活用したものづくりを学んでもらっています。Qremoと称している事業です。子どもの創造性を開放し伸ばしていく、という新しい教育の提供を通じて既存の学校教育以外の選択肢が多様に存在する社会を実現したいと思っています。

安島:どれもユニークな事業ばかりですね。野地さんはそこで何をされているのですか?

野地:私は、Leaf事業の一店目のマネージャーをしていました。知名度が全くなかったので、苦労しました。発達障害についてTwitterでつぶやいているママさんにアプローチしたり、路上やマンションでチラシを配ったりしました。

安島:まさに、創業ですね。

野地:お子さんが発達障害と言われても話きちんと聞いてくれるところがなかったようで、私と話を始めると涙を流しながら二時間ほど苦労を打ち明けていただいたお母さんもいました。

安島小さなお子さんがいらっしゃるお母さんですから30歳代の後半くらいですか。20歳代の野地さんが話を聞いたのですね。重かったでしょうね。

野地:そうですね。でも5年たって、今は8000人くらいのお子さんが通ってくれています。直接かかわっていた自分としては感慨深いです。

安島:いやあ、野地さん若いときから良い仕事していますね。成長の秘訣は何でしょうか?

野地:やはり、「世界を変え、社員を幸せに」という理念と、「障害のない社会をつくる」というビジョンを大切にしていて、それに関心を寄せてくれる人がたくさん集まってくれることだと思います。多くの人の心に「より良い社会を実現したい」という気持ちは眠っているものと思っています。

安島:リクルートやDeNAなど、いわゆる有名企業からの転職組もいらっしゃいますね。LITALICOは一般企業ではなかなか満たされにくいものを社員の方に提供しているのかもしれませんね。

野地:採用活動は一般企業と同じで、HPで採用のページを作成したり、リクナビに登録したり、ベンチャー企業のイベントに参加したりしています。福祉業界としては、珍しいことかもしれません。

安島:従来の福祉業界からも人は来ますか?

野地:はい、そちらからも結構いらっしゃいます。NPOや社会福祉法人、学校法人など公共的な機関にいらっしゃって、自分らしく活動できなかった方が、株式会社ならばもう少し自由に挑戦できるのではないかと応募される方もいます。

安島:ただ、福祉分野ですと、株式会社を避ける人も多いのではないですか?お金儲けしか考えていないのではないかと言われたりして。

野地:確かにそう言われることもあります。ただ、スケールメリットを活かして、各拠点でのノウハウを集約したり、サービスの質へ思い切った投資をしたりすることでハイクオリティのサービスを提供しようとしていることは理解いただけていると思います。

安島:社会福祉法人の中でも良い法人や悪い法人があるように、株式会社の中にも良い会社や悪い会社があるのだと思います。株式会社だから一概に悪いとは言えません。

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~新卒で80人のベンチャー企業に入ったわけ~

安島:ところで、野地さんは何故、ベンチャー企業に飛び込んだのですか?

野地:それは、安島さんが、私のことを実業向きだと言ったからじゃないですか(笑)
就職活動の初めの頃は、外資系企業や経営戦略コンサルタントなどエリートが集まるところで働きたい、優秀な人の集まるところにいれば成長できると思っていました。

安島:結構ストレートな想いですね(笑)

野地:CDIはパートナー別採用という制度を取っていて、安島さんの選考を受けることにしました。

安島:そうでしたね。(CDIM注:CDIでは、経営幹部であるパートナー一人が、弟子を一人取るというスタイルで採用をしています。選考の過程で、学生はどのパートナーの弟子を目指すのかを選択することになります。そのパートナーとばかり仕事をするわけではありませんが、採用責任を明確にするための制度です)

野地:安島さんは学生の時、日本にまだマンション二部屋しかない外資系コンサルティング・ファームから内定をもらい、社会人生活を始めたと聞きました。そういうやり方もあるのかと驚きましたし、良いなと思いました。その安島さんから、実業向きだといわれたので、そうなのかなと思い、実業の会社を探しました。

安島:野地さんの選考は、本当に悩みました。一緒に働きたいと強く思うのですが、実業の世界に行った方が力をふるえる気がしました。野地さんは成長意欲がものすごく強い学生でしたね。

野地:確かに成長意欲は満々でした。ただ、就職活動をしているうちに、自己満足的に自分の中に閉じた成長では、社会から見たら意味がないと思いました。成長をどう社会に還元できるかということを考え始めました。その時にLITALICOに出会いました。

安島:確かに成長は手段にすぎませんからね。

野地:最後は、急成長していたゲーム会社とLITALICOのどちらにしようか迷いました。

安島:なぜ、LITALICOを選んだのですか?

野地:30年近く働いたことがなく、生活保護で暮らしている人がいるとします。その人は、「自分は税金で生かされている。自分が生きることで社会に負担をかけている。自分の存在価値は何なのか?」とまで思うことがあったとします。その人が、仕事に就いて、税金も納めることができたら、その人生の変化はむちゃくちゃ大きい。そうしたことのお手伝いができたら、それは比べようのない価値だと思いました。また、もっと多くの人が「よりよい社会を実現する」ことを仕事として選ぶようになれば社会の変化は加速度的に早くなると感じ、まずは自らが飛び込もうと決断しました。

安島:確かに、それは比べようのない価値ですね。

野地:それに、優秀な人が大勢集まっている会社では、自分がone of themになってしまう。

安島:それは、私も就職活動の時に思いました。

野地さん4

~福祉事業で学んでいること~

安島:福祉事業は価値があり、やりがいを感じる仕事だと思います。ただ一方で、福祉予算は膨らむ一方で、国家財政を圧迫している側面もあります。

野地:確かにそうですが、就職を増やしていくことにより、予算の削減に貢献できると思います。そのためには、訓練やトレーニングをするだけでは不充分で、あくまでゴールは仕事についていただくことにしなければならないと思っています。

安島:なるほど、そうですね。それでは、福祉事業は利益を出すのが難しい事業でもあります。株式会社としては、それをどう考えていますか?

野地:安島さん、攻めますね(笑)
確かに、社会的に価値のあることでも、利益を出しにくいことがあります。
そういう事業があった時、他に利益の出せる事業で利益を補っていく考え方があります。ポートフォリオを組み、全体で利益の帳尻をあわせていく考え方です。

安島:よくある考え方ですね。

野地:しかしそれでは、利益を補てんする事業がうまくいかなくなったら、社会的に価値のある事業をやめるのかという問題に直面します。福祉事業は、一度始めるとそこを死活的に利用する方がいらっしゃり、こちらの都合でやめますとはなかなか言えません。ポートフォリオを組んで、スクラップ&ビルドをしていくという一般企業経営の定石が通用しない世界です。

安島:それは、医療事業でも全く同じことが言えます。

野地:そうしないためには、利益が出にくい福祉事業であっても、なんとか自立的に利益が出せるビジネスモデルを考えださなければならないということになります。しかし、それは簡単でありません。答えが出ていません。とても難しい問題だと思います。

安島:高齢者向け事業や病児保育事業などを手掛けたりはしないのですか?

野地:個人の思いですが、チャンスがあれば、チャレンジしたい気持ちはあります。ただ、すでに色々な方が手掛けていいらっしゃいます。わざわざ、我々が入っていく価値があるのかどうかは厳しく吟味しなければならないと思います。

安島:人がやらないことをやるというのは、気分の良い話です。野地さん、今日はありがとうございました。話していると、やはりCDIで採用しておけばよかったと後悔しています(笑)でも、LITALICOに出会えたから、今の野地さんがあるのでしょうから、あきらめます。いつか、一緒に仕事がしたいと思います。

野地:そうですね。その時を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

 

(終)