海外ヘルスケアイノベーションへのアプローチ(第2弾)
1. イスラエルにおいて先行するヘルスケアイノベーション
人口880万人、国土面積は四国とほぼ同じイスラエルは、世界からヘルスケアイノベーションの中心地として認知されています。ヘルスケア・ライフサイエンスに関するスタートアップは年平均123社が設立され、現在合計で1,400社以上がイスラエルに集まっています¹。
なぜイスラエルはヘルスケアイノベーションが盛んなのでしょうか?その背景の一つとして、EHR(Electronic Health Record/電子カルテ)の普及があげられます。
イスラエルには、4つのHMO(Health Maintenance Organization/健康維持機構)がすべての国民の保険をカバーしています。HMOが実際に医療機関を運営していることも、大きな特徴です。そして同じHMOに所属している医療機関同士は、患者のEHRを相互に共有しています。イスラエルでは20年ほど前からEHR収集に取り組んでいます²。患者のEHRの共有を通じて、イスラエルでは異なる医療機関に行っても、過去の診療データに基づいて診療を受けることができます。
更に、患者の診療データは、研究開発や製品・サービス開発にも、積極的に活用されています。データベース化された患者の診療情報は、医療機関だけではなく、企業や大学・研究機関も利用でき、新たな価値を創生しています。
2. デジタルヘルスイノベーションの発達
イスラエルにおいては、このように患者の診療データの共有・活用の仕組みをベースに、個々人の健康状態を管理・追跡できる土壌があります。その蓄積された膨大な診療情報及びイスラエルの先端デジタルテクノロジーを融合することで、近年「デジタルヘルス」が大きな発展を遂げています。
現在、イスラエルには、デジタルヘルス分野に関するスタートアップだけで450社を超えています³。デジタルヘルスの活用例として、例えば医療機関は、様々なデジタル・ウェアラブルデバイスを通して、患者の診療データを医療機関内のみならず、日常生活・在宅から収集し、そのデータを活用して、遠隔による疾患の診断やバイタルサイン測定等のソリューションを提供します。
具体的なサービス事例として、イスラエルの「モニタリングセンター」が挙げられます。イスラエルにはモニタリングセンターというヘルスケアサービスの提供機関(民間企業)が複数あり、24時間遠隔見守りサービスを提供しています
モニタリングセンターは、サービスを利用する患者に、デジタル・ウェアラブルデバイスを提供し、患者の心拍数、血圧、血糖値などのデータを収集・管理します。もしそのデータに異常値が発見された場合には、モニタリングセンターがその情報を専属の医師に瞬時に通知し、医師がタイムリーに患者の診療を行うことで、早期介入並びに重症化の予防が可能となります。
3. イスラエルをつなぎ、日本へ
日本は世界の中でも高齢化が著しく、在宅医療、介護予防、慢性疾患管理の注目度が高まっています。患者を必ずしも医療機関だけでなく、遠隔でケアすることが求められる中、デジタルヘルスイノベーションに対する期待が高まりつつあります。実際、今年1月に日本並びにイスラエルの両政府は、デジタルヘルス分野における協力覚書に署名しました⁴。今後、日本の医療業界においても、イスラエルの先端的なテクノロジーを活用し、新たなソリューションやサービスを市場に出すことが想定されています。
一方、両国は、地理的にも文化的にも大きな違いがあり、両国の医療機関・企業等の協業を実現することは、容易ではありません。さらに、イスラエルと日本の医療システムにも大きな違いがあります。そこで、弊社は、日本の医療プラクティスに対する理解と、イスラエルの先端医療技術へのアクセスをもとに、両国の「ギャップ」を埋めるべく、活動を進めています。イスラエル企業の日本市場参入支援に加えて、今後は日本の医療機関・企業等が求める先端技術を積極的に発掘していきたいと考えております。弊社は国境を越えて、日本・イスラエル間のヘルスケアビジネスを展開する架け橋になることを目指しています。
文責:王 暄堯(おう・げんぎょう)
出所:
¹Isael’s Life Science Industry IATI Report 2017
² Imagine Bio
³イスラエル大使館 経済部
⁴経済産業省
王 暄堯(おう・げんぎょう)
CDIメディカル 副査
台北医学大学医療管理学部卒、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修了。台北新光病院、スタートアップ愛索マーケティング / グループ会社邁門薬品(株)を経て、現在に至る