薬機法の改正について(その2)
改正されました薬機法についてのコラムのその2です。今回は、改正事項の概要と施行予定について解説いたします。
〇法改正事項の概要
このような法改正の背景・目的のために、法改正される具体的な事項について、以下に概要と留意点を示します。各改正事項の詳細については次回以降で解説いたします。
1.医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための制度改善
(1) 「先駆け審査指定制度」の法制化
既に2015年より通知運用されている先駆け審査制度の優先審査対象が、既承認とは作用機序が明らかに
異なるなどの「先駆的医薬品等」と医療上のニーズが充足されていないなどの「特定用途医薬品等」に分類され、
法制度として明確化されます。
新しいカテゴリーであり税制優遇措置もされる「特定用途医薬品等」が注目されます。
(2) 「条件付き早期承認制度」の法制化
既に2017年より通知運用されている条件付き早期承認制度について、検証的臨床試験の実施が困難なもの
などは、検証的臨床試験以外の臨床研究によるデータ等で有効性・安全性を確認した上で承認時に条件が付されて
承認される制度として法制化されます。
2013年に再生医療等製品、2017年に対象製品の拡大、そして法制化という流れです。
(3) 変更計画による承認事項の変更、国際的な整合性のある品質管理手法の導入など
医薬品の製造方法、品質に係る承認事項について承認後変更管理計画書に基づく承認事項の変更制度の追加、
医薬品等の製造管理・品質管理について製造工程区分ごとの調査制度の追加、医療機器等のQMS適合性調査を
受けた同一製造工程を行う製造所での同調査を不要とする見直しがされます。
変更計画による承認事項の変更や製造・品質管理の調査の見直しによる効率化が期待されます。
(4) 継続的に改善・改良される医療機器や技術革新等に対応のための医療機器承認制度の導入
市販後に収集されるデータなどにより継続的に改良が見込まれている医療機器について、変更計画を審査過程で
確認し、計画された範囲内で承認事項の一部変更を認める承認審査制度が導入されます。
AIやRWD(リアルワールドデータ)などを活用した性能改良型の医療機器への対応が期待されます。
(5) 最新情報を医療現場に速やかに提供するための添付文書の電子的方法による提供の原則化
添付文書の製品への同梱が廃止され、電子的な方法による提供が基本となります。また、最新の添付文書情報への
アクセスを可能とする情報(QRコード等)を製品の外箱に表示して、情報改訂が医療機関に確実に届く仕組みが
構築されます。
添付文書の情報が医療現場に実質的に届くための必要な体制整備が求められます。
(6) トレーサビリティ向上のための医薬品の包装等へのバーコード等の表示の義務付け
製造、流通から、医療現場に至るまでの一連において、医薬品・医療機器等の情報の管理、使用記録の追跡、
取り違えを防ぐため、医薬品、医療機器等の直接の容器・包装にバーコード表示が義務化されます。
バーコード管理により、医薬品の取り違えの防止等に加えて使用記録をビッグデータ化したデータ解析の活用も
期待されます。
2.地域で患者が安心して医薬品を使えるための薬剤師・薬局のあり方の見直し
(1) 薬剤師の必要に応じた患者の薬剤の使用状況の把握・服薬指導をする義務、及び患者の薬剤使用情報を
他医療提供施設の医師等へ提供する努力義務の法制化
現行の調剤された薬剤を購入した患者等に対して販売・授与する際に情報提供や薬学的知見に基づく指導
(服薬指導)の義務に加え、調剤後の服薬指導、継続的な服薬状況等の把握も義務とされます。
また、患者の薬剤の使用に関する情報を他の医療施設の医師等に提供して医療提供施設相互の連携を推進することが
努力義務とされます。
物(医薬品)だけではなく、人(患者)の情報と管理の専門性が薬剤師に求められています。
(2) 患者自身が自分に適した薬局を選択できるための機能別薬局の知事認定制度の導入
薬局の役割について、医療機関との情報連携や地域の薬局と連携しながら一元的・継続的に対応できる薬局
(「地域連携薬局」)、がん等の専門的な薬学管理に関係機関と連携して対応できる薬局(「専門医療機関連携薬
局」)の機能を有すると認められる薬局に、都道府県の認定によりそれぞれの名称表示が導入されます。
健康サポート薬局に加え、地域連携薬局、専門医療機関連携薬局という薬局の専門性の獲得とどのように活用する
かは課題です。
(3) 対面義務の例外としてのテレビ電話等による服薬指導(オンライン服薬指導)の規定
調剤された薬剤を購入した患者等に対する薬剤師による対面での服薬指導について、テレビ電話等により薬剤の適正な
使用を確保することが可能であると認められる場合には、対面服薬指導の例外として、テレビ電話等による服薬指導が
可能となります。
オンライン診療とともにオンライン服薬指導の規制緩和がどこまで認められるかが注目されます。
3.信頼確保のための関係事業者の法令遵守体制等の整備
(1) 許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け
製造販売業者・製造業者、薬局開設者等に対して、薬事関連業務に責任を有する役員の設置、品質管理・製造販売
後安全管理、薬局の管理の業務の法令遵守のための指針や体制整備、法令遵守のため必要な能力・経験を有する
製造販売責任者・製造管理者、薬局の管理者の選任、及びそれらの者による意見申述義務などが法律上規定
されます。
薬事の法令遵守に対応するコーポレートガバナンスが求められており、体制整備と運用には相当のコストを要します。
(2) 虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設
医薬品、医療機器等の名称、製造方法、効能・効果又は性能に関する虚偽・誇大な広告行為を対象として、違反を
行っていた期間中の当該医薬品等の売上額の4.5%(例外あり)を課徴する制度が導入されます。
現行では虚偽広告違反の場合の罰金は200万円以下となっており、特に売上額が大きな医薬品等での違反に対する
制裁が強化されます。
(3) 国内未承認の医薬品等の輸入に係る確認制度の法制化
現行の通知により運用されている未承認医薬品・医療機器等の輸入に関する監視の確認制度(薬監証明制度)が
法制化されます。また、違反に対しては薬機法に基づく、指導・取締りが行われることとなり、麻薬取締官などの捜査対象
とされます。
許可業態による医薬品等の販売・授与という薬事規制の例外である個人輸入の悪用に対する取締り強化です。
(4)医薬品として用いる覚せい剤原料の自己治療目的の携行輸入等の許可制度の導入
医薬品として用いる覚せい剤原料について、麻薬と同様に、患者による自己の疾病治療目的での携帯輸出入や
医療機関・薬局における都道府県職員の立会なしの廃棄が可能となります。ただし、医療機関・薬局において必要事項
の記録が義務とされます。
覚せい剤原料を使用するパーキンソン病の治療薬の携帯出入国などに対する緩和措置です。
4.その他
(1) 医薬品等安全性の確保等の施策を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会の設置
医薬品等の安全性の確保や危害の発生・拡大防止に関する施策の実施状況を評価・監視して、必要に応じて厚生労
働大臣に意見・勧告する医薬品等行政評価・監視委員会が厚生労働省に設置されます。
薬害肝炎事件の際の提言「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直し」を踏まえた措置です。
(2) 科学技術の発展等を踏まえた採血の制限の緩和(血液法)
医薬品等の試験目的への使用や医療の質・保健衛生の向上に資する目的への採血等の制限が緩和されます。また、
採血業の許可基準を明確化され、採血業の許可を採血所単位から事業者単位にして採血業務の管理者の規定と
その責務を明確化されます。
血液由来のiPS細胞の研究開発などの科学技術の発展や血液事業を巡る情勢の変化への制度の見直しです。
〇改正の施行時期
先に述べましたように、全ての改正事項の施行は3年をかけて実施されますが、その施行時期が本年3月に政令により以下のとおり示されました(法改正項目は先に示したもの)。
1.施行期日:令和2年9月1日
「先駆け審査指定制度」の法制化、「条件付き早期承認制度」の法制化
「継続的に改善・改良される医療機器や技術革新等に対応のための医療機器承認制度の導入」
「薬剤師の必要に応じた患者の薬剤の使用状況の把握・服薬指導をする義務、及び患者の薬剤使用情報を他医療
提供施設の医師等へ提供する努力義務の法制化」
「対面義務の例外としてのテレビ電話等による服薬指導(オンライン服薬指導)の規定」
「国内未承認の医薬品等の輸入に係る確認制度の法制化」
「医薬品として用いる覚せい剤原料の自己治療目的の携行輸入等の許可制度の導入」
「医薬品等安全性の確保等の施策を評価・監視する医薬品等行政評価・監視委員会の設置」
「科学技術の発展等を踏まえた採血の制限の緩和(血液法)」
2.施行期日:令和3年8月1日
「変更計画による承認事項の変更、国際的な整合性のある品質管理手法の導入など」(ただし、QMS適合性調査を
受けた同一製造工程を行う製造所での同調査を不要とする見直しは令和2年9月1日施行)
「最新情報を医療現場に速やかに提供するための添付文書の電子的方法による提供の原則化」
「患者自身が自分に適した薬局を選択できるための機能別薬局の知事認定制度の導入」
「許可等業者に対する法令遵守体制の整備の義務付け」
「虚偽・誇大広告による医薬品等の販売に対する課徴金制度の創設」
3.施行期日:令和4年12月1日
「トレーサビリティ向上のための医薬品の包装等へのバーコード等の表示の義務付け」
以上、今回は薬機法の法改正事項全体の概要と改正の施行時期について解説いたしました。次回以降は、それぞれの改正事項について解説していきます。
文責:岡野内 徳弥
本コラムの無断転載を禁止いたします。
岡野内 徳弥(株式会社CDIメディカル 主査)
静岡県立大学大学院薬学研究科修了、マサチューセッツ大学ビジネススクール修了。
博士(薬学)、経営学修士。
厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、国立医薬品食品衛生研究所、環境省、法務省、神奈川県を経て、現在に至る。