【CDIメディカルEye 】がん免疫療法あれこれ

ノーベル賞の発表がありました

2020年のノーベル生理学・医学賞は、C型肝炎ウイルスを発見した功績で、米国立衛生研究所Harvey Alter名誉研究員、カナダのアルバータ大学のMichael Houghton教授、米国ロックフェラー大学のCharles Rice教授に決まりました。さらに、化学賞の方では、ゲノム編集技術CRISPR-Cas9を開発した、独国マックスプランク感染生物学研究所のEmmanuelle Charpentier所長、米国カリフォルニア大学バークレー校のJennifer A. Doudna教授の受賞となりました。

残念ながら文学賞の有力候補村上春樹さんも含め日本人の受賞はありませんでしたが、個人的には、今年はメディカル関係で2つも受賞があった!と思っています。

さて、話は変わりますが、そんなノーベル生理学・医学賞を2018年に受賞した京都大の本庶佑先生に関して9月にニュースがありました。申告漏れと見出しがあると、何だか悪いことでもしたかのようにも取れて報道の仕方がよくないような気もしますが、実際にはそういう話ではありません。

本庶佑氏が22億円申告漏れ 特許対価供託で課税(日本経済新聞 2020.9.10)

先生ががん免疫薬オプジーボの発明の対価について小野薬品工業と揉めているのは確かで、この話題はまたどこかで考えてみたいテーマですが、今日はその前に”がん免疫って何?”というコラムです。

がん免疫療法あれこれ

オプジーボの登場で、世の中では一気に脚光を浴びることになったがん免疫療法ですが、がんの免疫療法ってどんなもの?となるとご存知の方は意外と少ないかもしれません。それにはまず”がんと免疫の関係”を整理する必要があります。

1. がん細胞は”お顔”がちがう

がん細胞はもともと”自分”の細胞ですが、正常な細胞ががんになることによって”自分じゃない=異分子”に変化します。免疫システムは自分じゃないものを排除する仕組みなので、その”異分子”を排除しようと攻撃をします。健康な体の中でも毎日がん細胞は出来ている、といいますが、通常は免疫システムによってがん細胞は排除されているのでがんになりません。

 1. の治療アプローチ = がんの特異的抗原をターゲットにする→ がんワクチン療法、CAR-T療法(例:キムリア)

2. がん細胞は攻撃を”回避する”ように変化する

一方、がん細胞はそのままでいると免疫システムに攻撃されてしまうので、体の中で生き残るためにさらに変化をします。免疫の作用を弱めるはたらきを持つ分子(免疫チェックポイント分子)を出現させたりして、攻撃を回避するように成長します。こうなるとがんに対して免疫システムによる攻撃が行われなくなり、がん細胞は増殖していきます。

 2. の治療アプローチ = 免疫を回避する仕組みを阻害する →免疫チェックポイント阻害薬(例:オプジーボ)

がんは近年の技術革新によって、かなりの面で”死なない病気”になってきましたが、今現在でも多くのがんは有効な治療薬がない『アンメット・メディカル・ニーズ』として、医薬品開発の重要ターゲットになっています。一方で、画期的な抗体医薬などは高額な費用も問題になりますが、欧米では「アウトカム・ベース」や「バリュー・ベース」といった成功報酬型の薬価設定も出てきており、さまざまな新しい取り組みが試されている分野といえます。

メディカル分野のコンサルティングでは、常にホットなトピックの1つであるがんの治療については今後もときどきテーマに出来るとよいと思います。

文責:伊藤 愛

伊藤 愛(株式会社CDIメディカル コンサルタント)

大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了(薬剤師)。京都大学大学院医学研究科修士課程修了。

商社、独立系ベンチャーキャピタル、ヘルスケア・バイオベンチャー企業、経営コンサルティングファーム等を経て現職。ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、中期経営戦略等、新規事業戦略、海外展開、オープン・イノベーション戦略等、戦略立案から実行支援を含むコンサルティングを実施。