今回は前回のつづきです・・・
前回はAIによる医療画像の解析についてお話を書きましたが、今回はその続きです。
その1はこちら:AI(人工知能)と医療画像解析
前回、医療画像AIについて、その開発の方向性のことに触れましたが、具体的にはどうなんだ?ということで少しだけ掘り下げてみたいと思います。診断機器(モダリティ)によってどのような機能が期待されるか、というお話です。
世の中にはさまざまな診断機器があることは、健康診断や人間ドックでもいろいろ検査をしますのでご存知のとおりと思います。もちろんただいろいろな方法があるので複数の検査をやっているわけではなくて、当然のことながらその目的・役割も機器によって異なります。その中でAI技術の位置づけは、ということですが、AIはを人の代わりに”判定”をしてくれるんでしょ?といってしまえばそれまでです。もっと大きな可能性がありそうですよね、という考えに基づくと、機器の役割や特性に合わせて、AIができることについてもいろいろ考えられるのではないかと思います。
モダリティによるAIの期待機能のちがい
1. 内視鏡(胃カメラ)
ちょっと意外に思われるかもしれませんが、内視鏡検査は”医師が直接操作をする”という意味で、ほかとは異なる特徴がある検査です。(※ほかの画像検査は検査技師が検査を行い、医師は撮影された画像を見て診断をする、という役割分担であることが多い)直接操作をしていますので、検査をしながらリアルタイムでポリープを切除するといった”処置”も行えます。この点に注目すると「内視鏡 x AI」ではリアルタイムでの判断や作業をサポートしてくれる機能は重要になりそうです。また、医師が検査から直接関わるため、オペレーション上の効率向上に対するニーズが高いのも重要なポイントだと思います。
2.放射線(CT/MRI)
いわゆる”輪切り”の画像が撮影される検査です。人間ドックでも定番の検査だと思います。また、撮影時に痛かったり何か刺されたりすることがなく、基本的に寝ているだけ、の検査ということも特徴です。これらの特徴は、定期的に、同じアングルの、画像を継続して撮ることができる、ということで、健康な状態からの”定点観測”のデータを取得できることが重要になります。こうした特徴から、「放射線 x AI」では、超早期診断、異常になる前の兆候を検出するといった、ことを画像診断で実現できる可能性があると思います。予防医療の考え方は今後ますます重要になると思われますが、そのようなPatient Journeyの前段のところにAI技術への期待が大きいのではないかと思います。
3. 病理
病理検査は一般の方にはあまり身近かではないかもしれませんが、最終的にどういう病気なのかを決める確定診断を行うのは病理検査の役割です。組織や細胞を顕微鏡で見て判断をします。組織や細胞を取る、つまり侵襲性がある検査なので、基本的に疾患疑いのある方が対象の検査ですが、身体の”中身を直接見ている”という点がほかにはない特徴です。直接”中身”をみているということは、それだけ多くの情報量がある、ということでもあります。例えば遺伝子情報などと組み合わせることによって、画像の判定ではなく「予後予測や最適治療方法」といった結論に近い回答を得られるのではないか、といわれています。
ここでご紹介した内容は、それぞれの検査や検討されているAI技術のほんの一旦に過ぎませんので、AIによる医療画像解析の世界は、もっとほかにもいろいろな可能性に満ちていると思います。ライフサイエンス分野のコンサルティングではテクノロジーへの理解を深めることも重要だと考えています。最近はディープテックといういい方もするようですが、技術視点は今後も大事にしていきたいと思います。
AIと医療画像解析については、もう少しだけお話してみたいことがありますので、その3をやりたいと思います。
文責:伊藤 愛
伊藤 愛(株式会社CDIメディカル コンサルタント)
大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了(薬剤師)。京都大学大学院医学研究科修士課程修了。
商社、独立系ベンチャーキャピタル、ヘルスケア・バイオベンチャー企業、経営コンサルティングファーム等を経て現職。ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、中期経営戦略等、新規事業戦略、海外展開、オープン・イノベーション戦略等、戦略立案から実行支援を含むコンサルティングを実施。