医療情報の活用
新型コロナウイルス(COVID-19)対策の一環で、国内でも時限的にオンライン診療が規制緩和されました。
オンライン診療については、医療過誤に対する訴訟リスクなどの課題もありそうなので、一気に普及するとはいかないかもしれません。ですが、これを機に医療のデジタル化については多くの議論がすすむのではないかと思います。
また、各国のコロナウイルス対応をみていると、携帯電話の位置情報や対テロ技術を活用した”感染追跡”がウイルス拡大の防止に役立っている事例がみられます。しかし、ヨーロッパではGDPR(EU一般データ保護規則 General Data Protection Regulation)で個人情報の保護が厳しくなったこともあり、適用を見合わせたところもあったとか…GPSは使わないようですが、日本のCOCOAはどのくらい活用されるか、興味深いところです。
さて、こうしたお話の背景には、「医療情報の活用」があると思います。
医療情報(= 病院にあるカルテや診断などのデータ)、を使いたい、そうすればもっと色々なことができるのに、ということをたくさんの人が考えているわけですが、ことはそう簡単ではありません。医療情報は、その多くが普通の個人情報より取り扱いが厳しい”要配慮個人情報”です。病院のシステムが、電子カルテ、レセコン、部門システム、PACS…と複雑な構成で、病院内ですら十分に連携できていない、というのも理由の1つといえます。また、そもそも医療情報は“誰のものなんでしょうね?”というあたりが実ははっきりとしていない、というのも要因なのではないかな、と思います。
EHRとPHR
医療情報をもっと活用するためには情報を集約することが不可欠ですが、医療情報をデータベース化するアプローチにはいくつかあります。
そのひとつである、EHR(Electronic Health Record)は、中央集権的に国や地域で集積、管理しようというものです。医療情報は国が管理するデータベースに集約されていて、病院などの医療機関は、そこにアプローチして患者情報を得たり、カルテをデータベースに保存したりします。集約されたデータの利活用についてはEHRが進んでいる北欧諸国でも考え方が異なっているようで、例えばスウェーデンではアカデミックな利用に限定されていますが、エストニアではむしろ商業利用を推進しています。
一方で、個人を出発点とした、PHR(Personal Health Record)といアプローチもあります。医療情報は個人に属するもの、という基本的な考え方をベースにしていて、カルテ情報のほか、スマートウォッチのデータ、食事や運動のライフログなどを個人で集積、管理します。データの利活用は、プラットフォームに個人がデータを登録し、その一部を共有したり、企業や研究機関の利用をOKしたりすることになります。サービスとしては、米国のスタートアップ企業Patient Like Meなどがその代表例といえます。
日本の取り組みはどのようになっているでしょうか。EHRのアプローチとしては、厚生労働省が”次世代医療基盤法”でオールジャパンでのデータ利活用基盤を構築しようとしています。認定事業者による匿名加工によって医療情報の商用利用を推進することを目指そうとするものです。また、総務省が行っている”地域医療連携ネットワーク”では、医療機関間での情報連携、ネットワーク化が行われています。また、PHRのアプローチでは、同じく総務省が“情報信託機能活用促進事業”でいわゆる情報銀行モデルを検討しているようです。色々あっていいですね…って思います?
医療情報の取り扱いは、ヘルスケア分野のコンサルティングでも重要なテーマになると思いますので、引き続き追いかけたいと思います。
文責:伊藤 愛
伊藤 愛(株式会社CDIメディカル コンサルタント)
大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了(薬剤師)。京都大学大学院医学研究科修士課程修了。
商社、独立系ベンチャーキャピタル、ヘルスケア・バイオベンチャー企業、経営コンサルティングファーム等を経て現職。ライフサイエンス・ヘルスケア分野を中心に、中期経営戦略等、新規事業戦略、海外展開、オープン・イノベーション戦略等、戦略立案から実行支援を含むコンサルティングを実施。